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第二章 プロローグ

last update Last Updated: 2025-03-19 17:00:48

目を瞑り黒い深淵に飛び込んだ僕が、次に目を開けた時には見たこともない光景が広がっていた。

ビル一つない風景、空に浮かぶ月は二つ。

空は紫がかっており、お世辞にも綺麗な風景とは言えない。

辺りを見渡しても、異様な形の木にゴツゴツした岩肌が目立つ崖。

右手にはしっかりと紅蓮さんからもらったレーザーライフルが握られている。

魔物がいきなり現れそうな風景に腰を抜かし、座り込んで呆然としていると、前からアレンさんが近付いて来た。

アレンさんが僕の前に手を差し出し、話しかけてくる。

「ようこそ!ボクらの世界、アルカディアへ!!」

「ちなみにここは魔族領だからこんな風景だけど、この世界は美しい世界なのよ、誤解しないでね」

レイさんから補足されたが、忘れていた。

この異世界ゲートは魔族領に繋がっていたのだった。

ここから新たな未来を掴む為の旅が始まる。

そう意気込んで僕は呟いた。

「初めまして異世界アルカディア、そして待っていろ世界樹。必ず見つけてだしてやる」

――――――

草原が広がる大地の上で、魔物を狩る者達がいた。

「アカリ!一体そっちにいった!」

「任せて!カナタも無理しないで!」

息のあった動き。

男は片手に銃のような物を持ち魔物を牽制する。

もう片方の手には30cmほどの小剣。

女は刀を片手に忙しく動き回っている。

周囲には、狼を2倍ほどの大きさにしたような魔物が複数体。

既に彼らの足元には、息一つしない魔物の死体が複数体転がっている。

「喰らえ!!」

男は銃口を魔物に向け引き金を引く。

赤色の光線が射出され魔物の胴体に風穴を開ける。

しかし、その隙を狙ったかのように違う魔物が駆け寄り大きな口を開け襲いかかってくる。

が、アカリと呼ばれた女性が腕を振るったと同時に魔物の胴体は真っ二つに切り裂かれた。

「ごめん!油断した!」

「カナタ、雑魚でも群れたら危ないんだから気をつけて」

黒髪で小

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    「それにしてもこんな物まで貰ってよかったんだろうか」実はレーザーライフルを隠す為に、亜空間袋と呼ばれる物を入れておく袋を貰ったのだが、それがなかなかに凄い。中は亜空間魔法により拡張されているようで、一人暮らしのワンルーム程度の容量がある。物を取り出すときも、それを思い浮かべながら手を突っ込むと取り出せる。科学では説明がつかない、流石魔法具といったところか。「いいと思う。それ亜空間袋の中で一番小さい容量だし安い」これで一番小さいだと?「一番大きい容量の物だと、山すら入るから」「異世界アルカディア……凄まじいな……」アカリと何気ない会話をしつつ、夜はふけていった。――――――朝起きて朝食をすませた後外に出た。僕の目の前には、巨大な馬車が用意されている。バスほどの大きさがあるだろうか?10人乗っても余裕があるというでかさ。伯爵が用意してくれた馬車は、小さいバスくらいはある大きなもの。馬も見たことがないほどの大きさだ。少しファンタジックな馬だな、角は生えてるし眼つきがそれはもう恐ろしい。「さあ、みんな乗り込んで」アレンさんに促され団員達はゾロゾロと馬車に乗り込んでいく。僕は呆けて馬車を眺めていると後ろから声が掛けられた。「カナタくんだったかな?」振り返るとロアン伯爵が立っていた。「はい、どうしましたか?」「いやなに、君の境遇はアレン様から聞かせて貰ったよ。この世界を代表してお礼を言わせてほしい。無事に連れ帰ってくれてありがとう」ロアン伯爵は90度のお辞儀をし僕に礼をしてきた。「いえ頭を上げてください!全員で帰ってこられればよかったのですが、半分以上も僕の為に亡くなってしまって……」「君が責任を感じることはない。彼らは皆冒険者。守りたい者を守りきって命を落とすのは誇れる事なんだ」

  • もしもあの日に戻れたのなら   異世界アルカディア⑥

    「そんなことより、その赤眼を何とかした方がいい。伯爵に眼帯でも用意させるから待ってて」「伯爵にそんなこと頼んでもいいのか?」「いいよ、あの伯爵はかなり変わってる人だから」変わってる?別に普通に気さくなおじさん、って雰囲気だったが。「ここ、城塞都市ハビリスは一番魔族領に近い。だからカナタのその赤眼についても何も言ってこなかった。色んな人が出入りする都市だから」本来なら僕の赤眼は何処に行っても奇異な目で見られるし、レーザーライフルも珍しく、目につくらしいがロアン伯爵は様々な人と触れ合う機会が多く、僕にも何も言ってこなかったそうだ。慣れてしまっているのだろう、風変わりな者たちを見るのが。 ロアン伯爵に用意してもらった黒い眼帯を着ける。鏡の前で自分を見ると、似合わなすぎて笑ってしまった。「カッコよくなった」アカリに褒められると少し照れる。今まで眼帯なんて着けたことなかったから違和感しかない。見ようによってはかの有名な武将に見えなくもない。 少しすると、ドアがノックされた。「カナタくん、いるかい?」アレンさんが来たようだ。返事をすると、部屋に入ってくる。「いいね、眼帯よく似合ってるよ」「ありがとうございます。でも距離感が掴みにくいですね」「まあ慣れるまでは仕方ない。それで、馬車の準備は出来たから明日には出発するよ。それまではゆっくりしていて」それだけ伝えるとまた部屋を出て行った。「アカリは外に出なくていいのか?」「うん。カナタと一緒にいる」久しぶりにこの世界を見て回れるというのに、部屋にいるらしい。アカリは元の世界に居たときより、よく喋るようになった。理由を聞くと恥ずかしそうに答えてくれた。どうやら自分の世界に僕がいることが、嬉しいらしい。この世界の事は私が教える、と胸を張ってドヤ顔を見せる。可愛いやつだ。年相応な振る舞いをしてくれると僕も嬉しく

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